2008.02.28
Q:朝目が覚めてウキウキしたことありますか?
この“ドリム先生シリーズ”は、
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A : ドリム先生、今日は楽しい夢見たんです。
B : ほお、そりゃよかった。
最近はひどい夢を見る人が多くて、私も食傷気味だったんですよ。
どんな夢でしたか。早く聞きたいな。
A : ええ、目が覚めたとき、心も体もウキウキするような、
そんな快感にしばらくボーッと浸っていました。
でもー、個人的なものなので、先生にはつまんないかもしれませんよ。
B : いやいや、楽しい夢とあらば、何が何でも聞かねばなりません。
夢というものは、日常生活の20倍のエネルギーを内包しています。
それが楽しい夢だった場合は、
そのお話を聞くだけで寿命は確実に5年は伸びるのです。
A : そんな風に言われると、話しにくいなぁ。
話してみると、案外普通の夢だったりして。
B : いいんです、いいんです。
どんな夢であれ、それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 赤いバイクが僕のものになった。
何かの懸賞で当たったのだ。
学校へ行くのにバイクが使える。
その日は雨上がりで、まだ道はぬかるんでいたが、
早く乗りたくてしょうがない僕は、
バイクを押して玄関から外に出た。
なかなか軽快だ。
学校のバイク置き場は、
裏手の岡を登りきったところにある。
赤土の道はどろどろで、
まるでミルクセーキのようになっていた。
力一杯エンジンをふかすが、
タイヤは空回りして登れない。
何度か試みるがダメ。
いつしか僕はバイクを押して校庭を歩いていた。
こんなブザマな姿は、『あの子』には見せられない。
そこへ親友の川崎坊主がやってきた。
川崎坊主は別に家がお寺さんなのではない。
坊主頭にしているワケでもない。
ただ単に苗字に“坊主”とつけて呼び名にしているだけだ。
「あれ? これ、ナンタラ(何かは不明)が外れとっちゃないと?」
見ると、確かにそのナンタラがない。
キャッチャーが脛にあてるプロテクターのようなものがないと
バイクは走らないのだ。
とっさに僕は、さっきあの赤土の道で、
バイクにかなりの衝撃を与えたことを思い出した。
きっとあのときに外れたのだ、そのナンタラが。
赤土の道は、学校の一番古い校舎から真下に覗くことができる。
「あの辺で外れたと思うっちゃん」
窓から下方を指差して川崎坊主に教える。
そこへ、『あの子』とその友だちがやってきて、
みんなで探すのを手伝ってくれることになった。
古い校舎には、おじいさんが住んでいる。
何かを探す場合は、
そのおじいさんの許可をもらわなければならない。
僕は恐る恐るドアをノックした。
事の一部始終を説明する。するとおじいさんは、
「今からウチの体操部の連中が出て行くから…(以下不明)」
と言う。僕はおじいさんの言うことをしっかり理解した。
僕と川崎坊主は芝生と木々に囲まれた赤土の道へ降りていった。
すでに『あの子』たちは下に降りていて、
手分けしてそのナンタラを探してくれているようだった。
僕は古い校舎を見上げた。
窓のひとつが開いた。
そこから、体操部の7人の女子部員が顔をのぞかせた。
7人は虹の七色にそれぞれが光り、
前方回転や月面宙返りをしながら、
次々と華麗なジャンプで舞い降りてきた。
それはまるでピーターパンに出てくる妖精たちのようだった。
[被験者が1983年8月12日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : いい夢でしたね。実にいい夢だ。
「赤いバイク」は、
今あなたがつかもうとしている目標でしょう。
でもその目標を達成してみると、
人に自慢できるほどのものではないことに気がついた。
どこかしっくりこないと感じたワケです。
最初あなたには、その足りないものが見えなかった。
「川崎坊主」のような見識豊かな人に教えられて、
初めてそれが見えたはずです。
人のいうことによく耳を傾けることで、
より完成されたものへ近づけそうですね。
でも、その足りないものは、
あなた一人では探せないことに気がつきましたか。
他人があなたのことを「手伝ってくれる」…。
つまり、あなたが苦手とする他人との協力関係、
それを築くことが、今とても大事なことのようですね。
あなたは決心します。
苦手なことに立ち向かおうと奮い立ちます。
怖い「おじいさん」に話しかけました。
おじいさんとの会話には、
多少すれ違う部分はあったものの、
理解を得るという目的は達成できました。
これらのステップを確実に踏むことで、
あなたは「虹の妖精」という素敵なプレゼントを
受け取ることができたのです。
A : 先生、そうなんですよ。
先生の夢解釈を今聞いて、
また改めて心も体もウキウキしてきました。
B : よかったですね。
みなさんがウキウキして帰られると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。

はい、今心も体もウキウキしてきた方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
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A : ドリム先生、今日は楽しい夢見たんです。
B : ほお、そりゃよかった。
最近はひどい夢を見る人が多くて、私も食傷気味だったんですよ。
どんな夢でしたか。早く聞きたいな。
A : ええ、目が覚めたとき、心も体もウキウキするような、
そんな快感にしばらくボーッと浸っていました。
でもー、個人的なものなので、先生にはつまんないかもしれませんよ。
B : いやいや、楽しい夢とあらば、何が何でも聞かねばなりません。
夢というものは、日常生活の20倍のエネルギーを内包しています。
それが楽しい夢だった場合は、
そのお話を聞くだけで寿命は確実に5年は伸びるのです。
A : そんな風に言われると、話しにくいなぁ。
話してみると、案外普通の夢だったりして。
B : いいんです、いいんです。
どんな夢であれ、それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 赤いバイクが僕のものになった。
何かの懸賞で当たったのだ。
学校へ行くのにバイクが使える。
その日は雨上がりで、まだ道はぬかるんでいたが、
早く乗りたくてしょうがない僕は、
バイクを押して玄関から外に出た。
なかなか軽快だ。
学校のバイク置き場は、
裏手の岡を登りきったところにある。
赤土の道はどろどろで、
まるでミルクセーキのようになっていた。
力一杯エンジンをふかすが、
タイヤは空回りして登れない。
何度か試みるがダメ。
いつしか僕はバイクを押して校庭を歩いていた。
こんなブザマな姿は、『あの子』には見せられない。
そこへ親友の川崎坊主がやってきた。
川崎坊主は別に家がお寺さんなのではない。
坊主頭にしているワケでもない。
ただ単に苗字に“坊主”とつけて呼び名にしているだけだ。
「あれ? これ、ナンタラ(何かは不明)が外れとっちゃないと?」
見ると、確かにそのナンタラがない。
キャッチャーが脛にあてるプロテクターのようなものがないと
バイクは走らないのだ。
とっさに僕は、さっきあの赤土の道で、
バイクにかなりの衝撃を与えたことを思い出した。
きっとあのときに外れたのだ、そのナンタラが。
赤土の道は、学校の一番古い校舎から真下に覗くことができる。
「あの辺で外れたと思うっちゃん」
窓から下方を指差して川崎坊主に教える。
そこへ、『あの子』とその友だちがやってきて、
みんなで探すのを手伝ってくれることになった。
古い校舎には、おじいさんが住んでいる。
何かを探す場合は、
そのおじいさんの許可をもらわなければならない。
僕は恐る恐るドアをノックした。
事の一部始終を説明する。するとおじいさんは、
「今からウチの体操部の連中が出て行くから…(以下不明)」
と言う。僕はおじいさんの言うことをしっかり理解した。
僕と川崎坊主は芝生と木々に囲まれた赤土の道へ降りていった。
すでに『あの子』たちは下に降りていて、
手分けしてそのナンタラを探してくれているようだった。
僕は古い校舎を見上げた。
窓のひとつが開いた。
そこから、体操部の7人の女子部員が顔をのぞかせた。
7人は虹の七色にそれぞれが光り、
前方回転や月面宙返りをしながら、
次々と華麗なジャンプで舞い降りてきた。
それはまるでピーターパンに出てくる妖精たちのようだった。
[被験者が1983年8月12日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : いい夢でしたね。実にいい夢だ。
「赤いバイク」は、
今あなたがつかもうとしている目標でしょう。
でもその目標を達成してみると、
人に自慢できるほどのものではないことに気がついた。
どこかしっくりこないと感じたワケです。
最初あなたには、その足りないものが見えなかった。
「川崎坊主」のような見識豊かな人に教えられて、
初めてそれが見えたはずです。
人のいうことによく耳を傾けることで、
より完成されたものへ近づけそうですね。
でも、その足りないものは、
あなた一人では探せないことに気がつきましたか。
他人があなたのことを「手伝ってくれる」…。
つまり、あなたが苦手とする他人との協力関係、
それを築くことが、今とても大事なことのようですね。
あなたは決心します。
苦手なことに立ち向かおうと奮い立ちます。
怖い「おじいさん」に話しかけました。
おじいさんとの会話には、
多少すれ違う部分はあったものの、
理解を得るという目的は達成できました。
これらのステップを確実に踏むことで、
あなたは「虹の妖精」という素敵なプレゼントを
受け取ることができたのです。
A : 先生、そうなんですよ。
先生の夢解釈を今聞いて、
また改めて心も体もウキウキしてきました。
B : よかったですね。
みなさんがウキウキして帰られると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。
はい、今心も体もウキウキしてきた方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
2008.03.07
Q:何でこんなヤツと勝負しなきゃいけないんだよ、と思ったことありますか?
この“ドリム先生シリーズ”は、
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A : ドリム先生、今日は何だかムシャクシャしちゃって。
ちょっと聞いてもらえます? 今日の夢。
B : ずいぶん威勢がいいですね。
A : あんな小さいヤツに勝負を挑まれたんですよ。
B : おもしろそうですね。
A : 私は全然おもしろくないんですけどね。
お聞きになりますか?
B : もちろん。それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 水泳で決着をつけようということになった。
僕は“僕より小さいそいつ”と争っているのだ。
立会人は水泳指導のコーチだ。
“僕より小さいそいつ”は、すでに海パンになっている。
ヤル気満々のようだ。
僕は水泳は苦手なのだった。
プールでは水泳部の女子部員が泳いでいた。
プールサイドまで行ったとき、
僕は自分が靴下を履いているのに気がついた。
「靴下脱いできます」
コーチにそう言って、僕は更衣室に駆け込んだ。
脱いだ靴下をロッカーにしまって、
再びプールに行こうと更衣室のドアを開けたとき、
僕はまだ靴下を履いているのに気がついた。
あれ? 今脱いだはずなのに。
仕方なくもう一度それを脱ぎ、
プールへ向かった。
プールには先ほどの女子部員はもういなかった。
“僕より小さいそいつ”は、水に慣れるべく、
すでに練習を始めていた。
プールには、みんなが食べた食器がプカプカ浮いていた。
汚くて、とても泳ぐどころの騒ぎではなかった。
“僕より小さいそいつ”は、ハシやおわんの間から顔を出して、
「お前も練習したらどうだ」と言う。
不潔ということを知らない、まったくバカなヤツだ。
さて、試合だ。
8コースあるのだが、
2人だからそんなに使わないということで、
5コース分水を抜くことにした。
端の3コースだけを使うのだ。
ここのプールは、
ひとコースごとに水を入れたり抜いたりできるのだった。
端の3つのコースにもハシやおわんが浮いていたが、
僕はそのことよりも、
3コースだけでは泳ぐときに相手の腕が邪魔で、
思う存分泳げないと抗議した。
コーチもなるほどと思ってくれたようで、
3コース分の水を8コースに広げてくれた。
しかしその分、水深はかなり浅くなってしまった。
そこで今度は、膝下までしか水がないのでは
手が水底にあたってしまって泳げないと抗議した。
コーチは自分が試してみると言い、
スタート台から飛び込んだ。
「OKだよ!」
プールの中からコーチが叫ぶ。
コーチはオリンピック級だから大丈夫だろうけど、
僕が飛び込んだら確実にプールの底に頭をぶつけるだろう。
そんなこともわからないコーチに
僕はだんだん腹が立ってきた。
勝負は50m。
長いな。
25mにしてくれないかな。
25mなら自信があるんだけど…。
[被験者が1983年11月17日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : 勝負事を避けようと一生懸命ですね。
A : やっぱり先生にはバレますね。
最初は、このコーチのいい加減さに腹が立ったように思ったんですが、
よくよく考えてみるとそうではなくて、
僕を勝負ごとにどんどん追い込んでいく、
このモチーフそのものに対して、
僕は腹が立ってきたようなんです。
B : 今回はまだ決着がついてませんが、
いずれまた別の形で決着をつける日がくるんでしょうね。
A : はあ、気が重いな。
B : “僕より小さいそいつ”というのが印象的ですね。
A : ええ、何で小さいやつなんでしょ?
B : 「状況の打開」というモチーフには、
このように“小さくて勢いのあるもの”がよく出てきます。
「トリックスター」と呼ばれるものです。
日本の神話に出てくる「スサノオノミコト」や、
西遊記に出てくる「孫悟空」なんかも「トリックスター」です。
それまでの凝り固まった規制や常識をくつがえす象徴です。
次の夢でまた運よくトリックスターが出てきたら、
ぜひ逃げないで勝負してみてください。
真剣勝負にクタクタになった二人の視線がホッと緩んで、
「なかなか強いじゃない」とお互いの力量をたたえ合う、
そんなシーンってよくドラマにあるでしょ。
あれがひとつの「状況の打開」のスタイルです。
A : なるほど。
そのお話を聞くと、
次は絶対勝負してみようという気になってきましたね。
何だか次の夢が楽しみだなぁ。
B : よかったですね。
みなさんがワクワクした表情で帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。

はい、今度夢にトリックスターが出てきたら
勝負してやろうと思った方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A : ドリム先生、今日は何だかムシャクシャしちゃって。
ちょっと聞いてもらえます? 今日の夢。
B : ずいぶん威勢がいいですね。
A : あんな小さいヤツに勝負を挑まれたんですよ。
B : おもしろそうですね。
A : 私は全然おもしろくないんですけどね。
お聞きになりますか?
B : もちろん。それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 水泳で決着をつけようということになった。
僕は“僕より小さいそいつ”と争っているのだ。
立会人は水泳指導のコーチだ。
“僕より小さいそいつ”は、すでに海パンになっている。
ヤル気満々のようだ。
僕は水泳は苦手なのだった。
プールでは水泳部の女子部員が泳いでいた。
プールサイドまで行ったとき、
僕は自分が靴下を履いているのに気がついた。
「靴下脱いできます」
コーチにそう言って、僕は更衣室に駆け込んだ。
脱いだ靴下をロッカーにしまって、
再びプールに行こうと更衣室のドアを開けたとき、
僕はまだ靴下を履いているのに気がついた。
あれ? 今脱いだはずなのに。
仕方なくもう一度それを脱ぎ、
プールへ向かった。
プールには先ほどの女子部員はもういなかった。
“僕より小さいそいつ”は、水に慣れるべく、
すでに練習を始めていた。
プールには、みんなが食べた食器がプカプカ浮いていた。
汚くて、とても泳ぐどころの騒ぎではなかった。
“僕より小さいそいつ”は、ハシやおわんの間から顔を出して、
「お前も練習したらどうだ」と言う。
不潔ということを知らない、まったくバカなヤツだ。
さて、試合だ。
8コースあるのだが、
2人だからそんなに使わないということで、
5コース分水を抜くことにした。
端の3コースだけを使うのだ。
ここのプールは、
ひとコースごとに水を入れたり抜いたりできるのだった。
端の3つのコースにもハシやおわんが浮いていたが、
僕はそのことよりも、
3コースだけでは泳ぐときに相手の腕が邪魔で、
思う存分泳げないと抗議した。
コーチもなるほどと思ってくれたようで、
3コース分の水を8コースに広げてくれた。
しかしその分、水深はかなり浅くなってしまった。
そこで今度は、膝下までしか水がないのでは
手が水底にあたってしまって泳げないと抗議した。
コーチは自分が試してみると言い、
スタート台から飛び込んだ。
「OKだよ!」
プールの中からコーチが叫ぶ。
コーチはオリンピック級だから大丈夫だろうけど、
僕が飛び込んだら確実にプールの底に頭をぶつけるだろう。
そんなこともわからないコーチに
僕はだんだん腹が立ってきた。
勝負は50m。
長いな。
25mにしてくれないかな。
25mなら自信があるんだけど…。
[被験者が1983年11月17日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : 勝負事を避けようと一生懸命ですね。
A : やっぱり先生にはバレますね。
最初は、このコーチのいい加減さに腹が立ったように思ったんですが、
よくよく考えてみるとそうではなくて、
僕を勝負ごとにどんどん追い込んでいく、
このモチーフそのものに対して、
僕は腹が立ってきたようなんです。
B : 今回はまだ決着がついてませんが、
いずれまた別の形で決着をつける日がくるんでしょうね。
A : はあ、気が重いな。
B : “僕より小さいそいつ”というのが印象的ですね。
A : ええ、何で小さいやつなんでしょ?
B : 「状況の打開」というモチーフには、
このように“小さくて勢いのあるもの”がよく出てきます。
「トリックスター」と呼ばれるものです。
日本の神話に出てくる「スサノオノミコト」や、
西遊記に出てくる「孫悟空」なんかも「トリックスター」です。
それまでの凝り固まった規制や常識をくつがえす象徴です。
次の夢でまた運よくトリックスターが出てきたら、
ぜひ逃げないで勝負してみてください。
真剣勝負にクタクタになった二人の視線がホッと緩んで、
「なかなか強いじゃない」とお互いの力量をたたえ合う、
そんなシーンってよくドラマにあるでしょ。
あれがひとつの「状況の打開」のスタイルです。
A : なるほど。
そのお話を聞くと、
次は絶対勝負してみようという気になってきましたね。
何だか次の夢が楽しみだなぁ。
B : よかったですね。
みなさんがワクワクした表情で帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。
はい、今度夢にトリックスターが出てきたら
勝負してやろうと思った方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
2008.03.13
Q:朝目が覚めて卒倒しそうになったことありますか?
この“ドリム先生シリーズ”は、
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A : ドリム先生、今日はかなりヤバイです。
あんな夢見るんじゃなかった。
B : 夢は見ようと思って見られるものでもなく、
見たくなくても見てしまう…そういうものです。
見たものをそのまま素直に受け入れてみましょう。
A : 先生、聞いてもらえますか?
B : それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 僕らは稲刈りをしていた。
何人かいた仲間のうち、
田んぼに一番乗りをしたのは、何を隠そうこの僕だ。
すでに教室ぐらいのスペースは刈り取られている。
「この辺一帯は僕が刈ったんだぞ」と、
ガキのような自慢をしているヤツがいる。
…僕だった。
一応、誰が刈ったのかはちゃんと説明しとかないと、
他の人たちが困るだろうと思っての配慮なのだ。
さて、地震がやってくる時間が迫ってきた。
皆は自分の席に戻ろうということになった。
田んぼはいつの間にか大きなホールとなり、
びっくりするほど足の長いテーブルの周りに、
それに合わせて足の長いイスが並んでいる。
みんなはおとなしく席についた。
僕の右隣は「憧れの女の子」だ。
みんなビールや水割りをガンガン飲んでいる。
僕は左隣の友だちとの話がエキサイトしたふりを装って、
何気なく「憧れの女の子」にもたれかかった。
僕は女の子とのスキンシップが何より好きなのだ。
さあ、いよいよ地震がやってくる。
みんなは今か今かと身構えている。
壁にかかった時計の長針があと1分進めば地震だというときに、
その長針と地震の発生時刻との間に、
“15分間の休憩時間”が割り込んできた。
皆は、ほっとした様子で、それぞれトイレに立ったり、
他のテーブルの友だちのところに話しに行ったりしている。
さあ、休憩時間も終わり、僕たちは席に戻った。
僕の背中側のテーブルに、
小悪魔が座っているのを、しばらく前から気付いていた。
小悪魔は外見はかわいい女の子の姿をしている。
皆はこれにだまされるのだ。
チラチラ後ろを振り返ると、小悪魔は僕の方をはすに見ながら、
「あいつよあいつ」などと隣の女の子とひそひそやっている。
僕はさっき「憧れの女の子」と十分スキンシップしたので、
気分が異常に高揚していた。
だからいつもの僕とは人格が変わっていた。
イスから飛び上がって、「アチョー!」とおどけた声を出しながら、
小悪魔の頭をポカリ。
「今日のおどけ方には、アクがなかったぞ」と
ひとり悦に入った。
・・・・・・・・
肝心の地震は過ぎ去ってしまったらしい。
皆はやっと本心からくつろいだ気分になって
タバコをくゆらせたり、グラスを傾けたりしている。
突然、さっきの地震に満足できなかった2人のプロレスラーが
ケンカを始めた。
金髪の外人レスラーと、黒タイツの日本人レスラーだ。
黒タイツが金髪の腹部に膝蹴りを食らわした。
金髪は「キュー!」という腹からしぼり出すような声をあげて、
後ろ向きにぶっ倒れた。
僕は、こいつは死ぬぞ、と確信した。
誰かが呼んだに違いない。
医者が手にメスをもってやってきた。
ここで手術をする気だ。
血は見たくない。
目をそらす。
しばらくしてコワゴワ指の間からのぞいて見ると、
金髪の腹は、カエルの解剖のように開かれていた。
周りの皆に説明している医者の声が聞こえる。
「この男は、腹部を強化するために、
腹の中に銅板を入れていたのだ」
ところが黒タイツに蹴られたことによって、
銅板が折れて内臓を傷つけることになってしまったという説明だ。
「見てみろ」
医者が言って内蔵に手を突っ込むと、
中から、もうすぐで孵化するはずだった
青いカメの卵がボロボロっと出てきた。
[被験者が1983年8月17日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : 強烈ですね。ものすごいエネルギーを感じます。
A : 私はこんな夢を見て大丈夫なのでしょうか。
B : “夢”というものは、
実生活では未だ精神的に消化できていない出来事を
もう一度あなたに消化させるために、
色を変え、形を変えて何度も現れてくるものです。
“精神的に消化できなかった出来事”が過去のさまざまな記憶と結びつき、
それらが集合体となって“うねり”と色合いを持ってしまったとき、
それを我々精神分析医は“コンプレックス”と呼びます。
“コンプレックス”を今一度あなた自身の中に取り込んでいくこと、
それが今のあなたに突きつけられている課題なのです。
この夢のメインテーマとも言える「地震」は、
“コンプレックス”との再融合のために
あなたが通過しなければならない“変革”を意味しています。
「地震」は古いあなたを壊し、新しいあなたへと変貌させる儀式なのです。
相当な怖さを伴うことであります。
ところが、「女の子とのスキンシップ」で有頂天になっている間に
「地震」はこともなく過ぎ去ってしまいました。
今のあなたには、まだ自己変革の準備が
できていないということなのでしょう。
あせることはありません。
またいずれ、この「地震」などの“変革モチーフ”は
必ずあなたの夢に現れてきます。
最後に、あなたが受け止め切れずに避けていることが
いくつか続けざまに出てきましたね。
「暴力」「手術」「血」「内臓」
“夢”って人は、残酷な性格の持ち主なんですよ。
あなたがイヤがっているものをことさらに選びながら
映像として、音として、
ホレ見ろヤレ見ろと攻め立ててきます。
でも、何度かそんな場面に遭遇するうちに、
“それら”をただ単に排除するのではなく、
”それら”がこの世に存在するのだということを、
現実感を持ってしっかり受け止められるようになりますよ。
A : でも、最後の、青いカメの卵がボロボロっと出てきたところは、
卒倒するかと思いました。
B : 私も聞いていて尾てい骨がゾクゾクっとしました。
A : でも話してみて、ずいぶんラクになりましたよ。
ありがとうございました。
B : よかったですね。
みなさんが肩の力を抜いて帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。

はい、今ドキドキしたあとにホッとした方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A : ドリム先生、今日はかなりヤバイです。
あんな夢見るんじゃなかった。
B : 夢は見ようと思って見られるものでもなく、
見たくなくても見てしまう…そういうものです。
見たものをそのまま素直に受け入れてみましょう。
A : 先生、聞いてもらえますか?
B : それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 僕らは稲刈りをしていた。
何人かいた仲間のうち、
田んぼに一番乗りをしたのは、何を隠そうこの僕だ。
すでに教室ぐらいのスペースは刈り取られている。
「この辺一帯は僕が刈ったんだぞ」と、
ガキのような自慢をしているヤツがいる。
…僕だった。
一応、誰が刈ったのかはちゃんと説明しとかないと、
他の人たちが困るだろうと思っての配慮なのだ。
さて、地震がやってくる時間が迫ってきた。
皆は自分の席に戻ろうということになった。
田んぼはいつの間にか大きなホールとなり、
びっくりするほど足の長いテーブルの周りに、
それに合わせて足の長いイスが並んでいる。
みんなはおとなしく席についた。
僕の右隣は「憧れの女の子」だ。
みんなビールや水割りをガンガン飲んでいる。
僕は左隣の友だちとの話がエキサイトしたふりを装って、
何気なく「憧れの女の子」にもたれかかった。
僕は女の子とのスキンシップが何より好きなのだ。
さあ、いよいよ地震がやってくる。
みんなは今か今かと身構えている。
壁にかかった時計の長針があと1分進めば地震だというときに、
その長針と地震の発生時刻との間に、
“15分間の休憩時間”が割り込んできた。
皆は、ほっとした様子で、それぞれトイレに立ったり、
他のテーブルの友だちのところに話しに行ったりしている。
さあ、休憩時間も終わり、僕たちは席に戻った。
僕の背中側のテーブルに、
小悪魔が座っているのを、しばらく前から気付いていた。
小悪魔は外見はかわいい女の子の姿をしている。
皆はこれにだまされるのだ。
チラチラ後ろを振り返ると、小悪魔は僕の方をはすに見ながら、
「あいつよあいつ」などと隣の女の子とひそひそやっている。
僕はさっき「憧れの女の子」と十分スキンシップしたので、
気分が異常に高揚していた。
だからいつもの僕とは人格が変わっていた。
イスから飛び上がって、「アチョー!」とおどけた声を出しながら、
小悪魔の頭をポカリ。
「今日のおどけ方には、アクがなかったぞ」と
ひとり悦に入った。
・・・・・・・・
肝心の地震は過ぎ去ってしまったらしい。
皆はやっと本心からくつろいだ気分になって
タバコをくゆらせたり、グラスを傾けたりしている。
突然、さっきの地震に満足できなかった2人のプロレスラーが
ケンカを始めた。
金髪の外人レスラーと、黒タイツの日本人レスラーだ。
黒タイツが金髪の腹部に膝蹴りを食らわした。
金髪は「キュー!」という腹からしぼり出すような声をあげて、
後ろ向きにぶっ倒れた。
僕は、こいつは死ぬぞ、と確信した。
誰かが呼んだに違いない。
医者が手にメスをもってやってきた。
ここで手術をする気だ。
血は見たくない。
目をそらす。
しばらくしてコワゴワ指の間からのぞいて見ると、
金髪の腹は、カエルの解剖のように開かれていた。
周りの皆に説明している医者の声が聞こえる。
「この男は、腹部を強化するために、
腹の中に銅板を入れていたのだ」
ところが黒タイツに蹴られたことによって、
銅板が折れて内臓を傷つけることになってしまったという説明だ。
「見てみろ」
医者が言って内蔵に手を突っ込むと、
中から、もうすぐで孵化するはずだった
青いカメの卵がボロボロっと出てきた。
[被験者が1983年8月17日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : 強烈ですね。ものすごいエネルギーを感じます。
A : 私はこんな夢を見て大丈夫なのでしょうか。
B : “夢”というものは、
実生活では未だ精神的に消化できていない出来事を
もう一度あなたに消化させるために、
色を変え、形を変えて何度も現れてくるものです。
“精神的に消化できなかった出来事”が過去のさまざまな記憶と結びつき、
それらが集合体となって“うねり”と色合いを持ってしまったとき、
それを我々精神分析医は“コンプレックス”と呼びます。
“コンプレックス”を今一度あなた自身の中に取り込んでいくこと、
それが今のあなたに突きつけられている課題なのです。
この夢のメインテーマとも言える「地震」は、
“コンプレックス”との再融合のために
あなたが通過しなければならない“変革”を意味しています。
「地震」は古いあなたを壊し、新しいあなたへと変貌させる儀式なのです。
相当な怖さを伴うことであります。
ところが、「女の子とのスキンシップ」で有頂天になっている間に
「地震」はこともなく過ぎ去ってしまいました。
今のあなたには、まだ自己変革の準備が
できていないということなのでしょう。
あせることはありません。
またいずれ、この「地震」などの“変革モチーフ”は
必ずあなたの夢に現れてきます。
最後に、あなたが受け止め切れずに避けていることが
いくつか続けざまに出てきましたね。
「暴力」「手術」「血」「内臓」
“夢”って人は、残酷な性格の持ち主なんですよ。
あなたがイヤがっているものをことさらに選びながら
映像として、音として、
ホレ見ろヤレ見ろと攻め立ててきます。
でも、何度かそんな場面に遭遇するうちに、
“それら”をただ単に排除するのではなく、
”それら”がこの世に存在するのだということを、
現実感を持ってしっかり受け止められるようになりますよ。
A : でも、最後の、青いカメの卵がボロボロっと出てきたところは、
卒倒するかと思いました。
B : 私も聞いていて尾てい骨がゾクゾクっとしました。
A : でも話してみて、ずいぶんラクになりましたよ。
ありがとうございました。
B : よかったですね。
みなさんが肩の力を抜いて帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。
はい、今ドキドキしたあとにホッとした方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
2008.03.23
Q:その友人はホントに信頼できる人ですか?
この“ドリム先生シリーズ”は、
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A : ドリム先生、今日はワケわかんない夢見ちゃいました。
B : 夢はたいていワケがわからないものです。
その夢を見たとき、どんな気持ちがしましたか?
A : 何と言えばいいのか…現実の社会には悪いヤツがいるんだなって。
B : 悪いヤツが出てきましたか。
A : 先生、お聞きになりますか?
B : もちろん。それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 11月も半ばのさわやかな秋晴れといったところ。
僕は大学の同期の友人を助手席に乗せてドライブしている。
やがて車は街中に入ってきた。
「どこかでコーヒーでも飲もうか」
僕は彼に提案した。
その街はひっそりしていて、どの店もシャッターを下ろしている。
ゆっくり車を進めると、喫茶店のまん前の道端に
オンボロの机が並べられているのが見えた。
そのひとつに、年の頃26〜7の見目麗しき女性。
手に何か紙を持っている。
何の紙だろうと目を凝らすと、
“ポルノ”という文字が見えた。
「あっ、ポルノ映画のアンケート調査だ」と理解した。
それにしても、黙って座っているだけでは
仕事にならないだろう。
僕らはどこかに車を停めて、
喫茶店へ向かって歩いている。
さっき助手席に座っていた友人が
紙を持っているのに気がついた。
友人は並んでいる机のひとつに腰掛けて
何か書き始めた。
ひとりの男が喫茶店の入り口で、
手にした紙をお店の人に渡しているのが見えた。
「そうか、この喫茶店に入るためには、
このアンケート用紙を提出しなければならないのだ」
友人と僕は喫茶店の中に無事に入れた。
友人の向こう側のテーブルに
さきほどの見目麗しき女性が座っていた。
あの人はお客なのか、それともお店の人なのか…。
そのことを友人に聞こうと思って目の前の顔を見ると、
その男は保険のセールスマンだった。
男は「学生なら保険に入るべきだ」としきりに勧誘している。
「この1,500万円のヤツはひと月いくら払えばいいんですか?」
僕は彼が指差しているパンフレットの中でも
飛び切り高そうなヤツを指してこう聞いた。
「1,500万円ですから、月々150万円です」
「そんなァ。じゃ50万円のヤツは月々5万円ですか?」
「そのとおりです」
僕は保険の意味がよくわかった。
セールスマンの肩越しに、
さきほどの見目麗しき女性がまだ座っているのが見えた。
[被験者が1983年10月15日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : うーん。
A : どうなんですか、先生。
B : この夢の中に出てくる「大学の同期の友人」に対して、
あなたはどういう印象を持ってますか?
A : とても信頼してます。
彼は旅行が大好きで、
みんなで旅行するときは彼に計画を立ててもらうと、
それはもう楽しい旅行になるんです。
B : そんな彼がアンケートに答えているワケですから、
あなたも“喫茶店に入るためのアンケートの提出”に
何の疑問も持たなかったワケですね。
A : そうです。
いっしょにいたのが彼でなかったら、
そんな店には入らなかったかもしれない。
B : その信頼していた彼が、
突然「保険のセールスマン」になっちゃいましたね。
A : ええ、人相もあまりよくない人でした。
B : 信頼していた友人が突然、
いい加減な保険を売りつけるセールスマンになるなんて、
ショックだったでしょう?
A : 夢ですから、ショックということはないんですが、
あの柔和な友人にもこんな面があるってことかなって
ちょっと考えちゃいました。
B : その現実の友人がどうのこうのってことではないと思いますよ。
ただ、“盲目的な信頼”には落とし穴が潜んでいることもあって、
その辺は気をつけましょうねってことかもしれませんね。
A : あ、それフィットしました。
最初、「現実の社会には悪いヤツがいるんだな」って思ったって言いましたけど、
そう言ったこと自体に「オレって思慮が浅いな」っていう思いもあったんです。
でも今の先生の言葉で、何かが僕の胃までストンと落ちました。
いつも先生の夢分析には感心しちゃいます。
B : 分析なんて大げさなことはしてませんよ。
ただあなたの夢のお話を楽しく聞いてるだけです。
でも、よかったですね。
みなさんが表情を和らげて帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。

はい、今ドリル先生の分析に共感した方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
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A : ドリム先生、今日はワケわかんない夢見ちゃいました。
B : 夢はたいていワケがわからないものです。
その夢を見たとき、どんな気持ちがしましたか?
A : 何と言えばいいのか…現実の社会には悪いヤツがいるんだなって。
B : 悪いヤツが出てきましたか。
A : 先生、お聞きになりますか?
B : もちろん。それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
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A : 11月も半ばのさわやかな秋晴れといったところ。
僕は大学の同期の友人を助手席に乗せてドライブしている。
やがて車は街中に入ってきた。
「どこかでコーヒーでも飲もうか」
僕は彼に提案した。
その街はひっそりしていて、どの店もシャッターを下ろしている。
ゆっくり車を進めると、喫茶店のまん前の道端に
オンボロの机が並べられているのが見えた。
そのひとつに、年の頃26〜7の見目麗しき女性。
手に何か紙を持っている。
何の紙だろうと目を凝らすと、
“ポルノ”という文字が見えた。
「あっ、ポルノ映画のアンケート調査だ」と理解した。
それにしても、黙って座っているだけでは
仕事にならないだろう。
僕らはどこかに車を停めて、
喫茶店へ向かって歩いている。
さっき助手席に座っていた友人が
紙を持っているのに気がついた。
友人は並んでいる机のひとつに腰掛けて
何か書き始めた。
ひとりの男が喫茶店の入り口で、
手にした紙をお店の人に渡しているのが見えた。
「そうか、この喫茶店に入るためには、
このアンケート用紙を提出しなければならないのだ」
友人と僕は喫茶店の中に無事に入れた。
友人の向こう側のテーブルに
さきほどの見目麗しき女性が座っていた。
あの人はお客なのか、それともお店の人なのか…。
そのことを友人に聞こうと思って目の前の顔を見ると、
その男は保険のセールスマンだった。
男は「学生なら保険に入るべきだ」としきりに勧誘している。
「この1,500万円のヤツはひと月いくら払えばいいんですか?」
僕は彼が指差しているパンフレットの中でも
飛び切り高そうなヤツを指してこう聞いた。
「1,500万円ですから、月々150万円です」
「そんなァ。じゃ50万円のヤツは月々5万円ですか?」
「そのとおりです」
僕は保険の意味がよくわかった。
セールスマンの肩越しに、
さきほどの見目麗しき女性がまだ座っているのが見えた。
[被験者が1983年10月15日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : うーん。
A : どうなんですか、先生。
B : この夢の中に出てくる「大学の同期の友人」に対して、
あなたはどういう印象を持ってますか?
A : とても信頼してます。
彼は旅行が大好きで、
みんなで旅行するときは彼に計画を立ててもらうと、
それはもう楽しい旅行になるんです。
B : そんな彼がアンケートに答えているワケですから、
あなたも“喫茶店に入るためのアンケートの提出”に
何の疑問も持たなかったワケですね。
A : そうです。
いっしょにいたのが彼でなかったら、
そんな店には入らなかったかもしれない。
B : その信頼していた彼が、
突然「保険のセールスマン」になっちゃいましたね。
A : ええ、人相もあまりよくない人でした。
B : 信頼していた友人が突然、
いい加減な保険を売りつけるセールスマンになるなんて、
ショックだったでしょう?
A : 夢ですから、ショックということはないんですが、
あの柔和な友人にもこんな面があるってことかなって
ちょっと考えちゃいました。
B : その現実の友人がどうのこうのってことではないと思いますよ。
ただ、“盲目的な信頼”には落とし穴が潜んでいることもあって、
その辺は気をつけましょうねってことかもしれませんね。
A : あ、それフィットしました。
最初、「現実の社会には悪いヤツがいるんだな」って思ったって言いましたけど、
そう言ったこと自体に「オレって思慮が浅いな」っていう思いもあったんです。
でも今の先生の言葉で、何かが僕の胃までストンと落ちました。
いつも先生の夢分析には感心しちゃいます。
B : 分析なんて大げさなことはしてませんよ。
ただあなたの夢のお話を楽しく聞いてるだけです。
でも、よかったですね。
みなさんが表情を和らげて帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。
はい、今ドリル先生の分析に共感した方、
上の「ショートショート」ボタンを押してください。
どうもありがとうございます。
2008.04.07
Q:夢見てクタクタになったことありますか?
この“ドリム先生シリーズ”は、
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
B : ずいぶんお疲れのようですね。
いい夢でしたか。悪い夢でしたか。
A : まるで映画みたいで。スリルは確かに満点なんですけど、
やってる本人はたまんないですよ。
B : いやいや、これは期待できそうだ。
A : ちょっと長いですよ。
途中で飽きたりしないでくださいよ。
B : 飽きることは、まずないとお約束いたします。
どんな夢であれ、それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 僕が住んでる社宅の西向かいに、
ちょっと気になる美しい姉妹の家がある。
その日も僕は2階のベランダから
彼女たちの家を盗み見ていた。
その家の前の道路に、
10台ぐらいの車が停まっている。
彼女たちの親戚が遊びに来ているのだと思った。
玄関からたくさんの人々が出てきた。
皆それぞれ自分たちの車に乗る。
姉妹の車はスポーツタイプの新車だ。
助手席にはすでに妹の方が乗っている。
後ろの席には彼女たちの叔母さんにあたる2人の女性が乗った。
美人のお姉さんはまだ現れない。
僕は今だ! と思った。
今僕があの車の運転席に乗れば、
助手席の妹や後部座席のおばさんたちは、
僕のことを“お姉さん”だと思うだろう。
絶対にバレるはずはない。
よしやろう。
そう心に決めた途端、僕は運転席に座っていた。
他の車は次々に出発している。
親戚の車が全部走り出したあと、
彼女のお父さんとお母さんの車が動き出した。
あのあとにくっついて行こう。
助手席の妹は、僕のことを完全に“お姉さん”だと思っている。
僕がこの車を降りない限り絶対にバレないとは言え、
心臓はバクバクしていた。
車はオートマだった。
外見とは違って相当古いタイプのようだった。
走りながらときどきエンジンがストップしてしまうのだ。
横から妹が「大丈夫?」と覗き込むたびに、
「あーもうバレた」「いや大丈夫だ」とヒヤヒヤする。
あとに残してきたお姉さんのことが頭に浮かぶ。
たぶんこの車が走り出したときは、
「待ってー」とか叫びながら、
ひょっとすると50mくらいは走って追いかけてきたかもしれない。
その光景を思い浮かべると、お姉さんには悪いが、
我ながらおもしろいいたずらをしたものだと愉快になってくる。
車は踏み切りに差しかかった。
ここでエンジンが止まったらたいへんだ。
前を行く彼女のお父さんたちの車が、
バウンドしながら踏み切りを渡る。
次は僕たちの車だとアクセルを踏み込むや、案の定エンジンが止まった。
踏み切りの手前だったことは救われた。
しかし、後ろの車からクラクション攻撃を受ける。
やばい。降りて車を押そうか。いや待てよ。
車を降りたら僕が“お姉さん”でないことがバレてしまう。
しきりにアクセルを踏んでみたが、
エンジンがかかっていないものをどうすることもできない。
後ろの席からおばさんが「動かないの?」と首を伸ばしてくる。
クラクションの音がますます大きくなる。
先に踏み切りを渡り終えた彼女のお父さんがやってきた。
「動かないのか?」
このお父さん、これまでも何度か僕の夢の中に登場した、
ハゲて目のギョロっとした人だった。
僕はバレないかヒヤヒヤしている。
ここはお姉さんっぽい言葉を使った方がいいのだろうか。
いやいや、普通にしゃべっていれば、
それを聞いている人が勝手にお姉さんの言葉として受け取ってくれるはずだ。
それより、今は早くこの車を動かさないと…。
困った。困ったな。本当に困ったときは、
必ず何らかの解決策が浮かぶものだ。
ズボンの後ろのポケットに手を突っ込むと、
そこにカギが入っているのに気がついた。
そのカギを車に差し込んでみた。
ヤッター! エンジンがかかった!
「みんなはもうレストランに着いているぞ」
と叫ぶお父さんを残して、僕たちは先を急いだ。
突き当たりのT字路を左に曲がるとレストランに着くことはわかっていた。
わかっていたが、僕は右に曲がった。
曲がってすぐに、
このまま走ると首都高速の入口に吸い込まれるぞと気がついた。
やばいやばいと思いながら、車は首都高速へのスロープを登り始めた。
首都高速の入口にはスナックのマスターがいた。
グラスを布でキュッキュッと拭きながら、僕たちに聞いた。
「君たち、今日は定休日だってこと知ってるのか?」
「いえ、知りませんでした」
「今日はね、従業員しかボーリングはできないんだよ」
前方に目をやると、そこはボーリング場だった。
引き返さなきゃ。
でもここからどうやってUターンすればいいんだろ?
この車の後ろには、さっきの踏み切りのように
たくさんの車が数珠繋ぎになっているのだ。
助手席を降りて周りを見てきた妹が言う。
「いけるいける」
Uターンできるという意味だ。
僕たちを乗せた車はとうとうレストランに向かって走ることになってしまった。
だんだん心配になってきた。
僕はどうやってここから逃げ出せばいいんだろう。
もしレストランに着いて車を降りたらどうなる。
隣に座っている美しい妹や後ろの座席のおばさんたちは
今まで運転していたのがお姉さんではなかったことに気がついて
半狂乱になってしまうことは確実だ。
僕は大勢の人たちの前でつるし上げを食らうことになる。
そうだ。誰が何と言っても絶対車から降りるのはよそう。
いや、ダメだ。結果は同じだ。
あのギョロ目のお父さんに引きずり出されるに決まっている。
力だけは誰にも勝ったことがないのだ。
散々迷った末、僕はドアを開け、一目散に走り出した。
だいたいこの辺の場所はわかっている。
僕の大学の近くだ。
街はすっかり夜になっていた。
ふと足元を見ると、自分が靴を履いていないことに気がついた。
僕は靴下で走っていたのだ。
信号にひっかかって止まる。
周りの人の足元が気になる。
コンパ帰りの学生たちが与太っている。
見るとその一群は皆靴を履いていない。
この連中の中に紛れ込んでしまおうか。
こいつらの仲間のような顔をしていれば恥ずかしくない。
そう思いかけたが、それはプライドが許さなかった。
こんな飲んだくれと一緒にされてたまるか!
[被験者が1983年8月20日に見た夢より]
---- * ---- * ---- * ---- * ----
B : 終わりましたか?
A : ほーら、先生、やっぱり退屈しちゃったでしょ?
B : いえ、なかなかおもしろかったですよ。
A : 自分でも変なのはわかってるんですよ。
逃げるぐらいなら、最初から悪戯しなきゃいいのにって。
B : 夢ですからね。先のことは考えないでしょ。
・・・・・・・・
気になる異性がいた。
愉快な悪戯をした。
バレることを恐れ始めた。
バレるのが怖くなって逃げた。
靴も履かずに走っている自分がさらに恥ずかしくなった。
自分と同類の群集に身を隠そうとした。
でも群集と同じに見られることをプライドが許してくれなかった。
・・・・・・・・
だいたいそんな流れでしたね。
A : ええ、まあ。
B : どこが一番印象に残ってますか?
A : やっぱり「靴を履いていなかった」ことですかね。
B : 実生活で靴を履かずに歩いていたらかなり恥ずかしいですよね。
靴はこの場合、“常識的なこと”の象徴でしょう。
それまでの常識はずれのあなたの行動がどの程度まずいことなのか、
「夢」がそのレベルを示してくれたワケです。
「あなたが面白半分にやった悪戯は、
靴を履かずに街中を歩く程度に恥ずかしいことだ」とね。
A : 私っていうか、「夢の中の私」と言ってください。
先生の言い方だと、私がホントに常識のない人間みたいだ。
B : 夢の中に出てくる登場人物は、みなあなたの分身です。
最近人間関係で引っかかっていることなどありますか?
A : いえ、特には。
B : 常識はきちんとわきまえていらっしゃる?
A : そりゃもうそうですよ。
たくさんの部下も抱えてますから、滅多なことはできません。
B : でもあなたは、靴を履かずに街中を歩いた。
A : 「夢の中の私」です、歩いたのは。
B : 靴を履かずに街中を歩くほど恥ずかしいことをしている自分を、
あなたの心のどこかの部分が気づいている。
A : え? あ…あのこと…ですか?
B : そうかもしれません。
A : 先生、何か私のこと、知ってらっしゃるんですか。
B : それが何なのかはわかりませんが、
そのようなことが、あなたにはあるのだろうなということは推察できます。
A : 先生、言っちゃった方がいいですか? ここで。
B : 言わなくてもかまいません。
ここで言うと、あなたの赤裸々な過去と現在が
読者のみなさんにわかってしまいますよ。
A : それはまずい。
B : “あなたが気づいたこと”をもって、この夢の役割は終わりです。
A : ああ、よかった。
夢って、禅問答を投げてくる和尚さんみたいなところがあるんですね。
B : うまいこと言いますね。
心に余裕が生まれると、その人の言葉には深みと鮮やかさが出てくるものです。
みなさんがゆったりした表情で帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。

はい、今ドリル先生の分析に共感した方、
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どうもありがとうございます。
精神分析医を気取るドリム先生が
ユング心理学の「夢解釈」の手法にのっとって
被験者の夢を分析するものです。
実を申しますとドリム先生はズブの素人でございます。
本職の精神分析医の方がご覧になると、
稚拙の極みに映るやもしれません。
しかし、ここは短編ストーリーの世界。
少々お目こぼしいただければ幸いです。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
B : ずいぶんお疲れのようですね。
いい夢でしたか。悪い夢でしたか。
A : まるで映画みたいで。スリルは確かに満点なんですけど、
やってる本人はたまんないですよ。
B : いやいや、これは期待できそうだ。
A : ちょっと長いですよ。
途中で飽きたりしないでくださいよ。
B : 飽きることは、まずないとお約束いたします。
どんな夢であれ、それを聞くのが私の仕事ですから。
はいそれでは、少しイスを倒してラクな姿勢になりましょうか。
---- * ---- * ---- * ---- * ----
A : 僕が住んでる社宅の西向かいに、
ちょっと気になる美しい姉妹の家がある。
その日も僕は2階のベランダから
彼女たちの家を盗み見ていた。
その家の前の道路に、
10台ぐらいの車が停まっている。
彼女たちの親戚が遊びに来ているのだと思った。
玄関からたくさんの人々が出てきた。
皆それぞれ自分たちの車に乗る。
姉妹の車はスポーツタイプの新車だ。
助手席にはすでに妹の方が乗っている。
後ろの席には彼女たちの叔母さんにあたる2人の女性が乗った。
美人のお姉さんはまだ現れない。
僕は今だ! と思った。
今僕があの車の運転席に乗れば、
助手席の妹や後部座席のおばさんたちは、
僕のことを“お姉さん”だと思うだろう。
絶対にバレるはずはない。
よしやろう。
そう心に決めた途端、僕は運転席に座っていた。
他の車は次々に出発している。
親戚の車が全部走り出したあと、
彼女のお父さんとお母さんの車が動き出した。
あのあとにくっついて行こう。
助手席の妹は、僕のことを完全に“お姉さん”だと思っている。
僕がこの車を降りない限り絶対にバレないとは言え、
心臓はバクバクしていた。
車はオートマだった。
外見とは違って相当古いタイプのようだった。
走りながらときどきエンジンがストップしてしまうのだ。
横から妹が「大丈夫?」と覗き込むたびに、
「あーもうバレた」「いや大丈夫だ」とヒヤヒヤする。
あとに残してきたお姉さんのことが頭に浮かぶ。
たぶんこの車が走り出したときは、
「待ってー」とか叫びながら、
ひょっとすると50mくらいは走って追いかけてきたかもしれない。
その光景を思い浮かべると、お姉さんには悪いが、
我ながらおもしろいいたずらをしたものだと愉快になってくる。
車は踏み切りに差しかかった。
ここでエンジンが止まったらたいへんだ。
前を行く彼女のお父さんたちの車が、
バウンドしながら踏み切りを渡る。
次は僕たちの車だとアクセルを踏み込むや、案の定エンジンが止まった。
踏み切りの手前だったことは救われた。
しかし、後ろの車からクラクション攻撃を受ける。
やばい。降りて車を押そうか。いや待てよ。
車を降りたら僕が“お姉さん”でないことがバレてしまう。
しきりにアクセルを踏んでみたが、
エンジンがかかっていないものをどうすることもできない。
後ろの席からおばさんが「動かないの?」と首を伸ばしてくる。
クラクションの音がますます大きくなる。
先に踏み切りを渡り終えた彼女のお父さんがやってきた。
「動かないのか?」
このお父さん、これまでも何度か僕の夢の中に登場した、
ハゲて目のギョロっとした人だった。
僕はバレないかヒヤヒヤしている。
ここはお姉さんっぽい言葉を使った方がいいのだろうか。
いやいや、普通にしゃべっていれば、
それを聞いている人が勝手にお姉さんの言葉として受け取ってくれるはずだ。
それより、今は早くこの車を動かさないと…。
困った。困ったな。本当に困ったときは、
必ず何らかの解決策が浮かぶものだ。
ズボンの後ろのポケットに手を突っ込むと、
そこにカギが入っているのに気がついた。
そのカギを車に差し込んでみた。
ヤッター! エンジンがかかった!
「みんなはもうレストランに着いているぞ」
と叫ぶお父さんを残して、僕たちは先を急いだ。
突き当たりのT字路を左に曲がるとレストランに着くことはわかっていた。
わかっていたが、僕は右に曲がった。
曲がってすぐに、
このまま走ると首都高速の入口に吸い込まれるぞと気がついた。
やばいやばいと思いながら、車は首都高速へのスロープを登り始めた。
首都高速の入口にはスナックのマスターがいた。
グラスを布でキュッキュッと拭きながら、僕たちに聞いた。
「君たち、今日は定休日だってこと知ってるのか?」
「いえ、知りませんでした」
「今日はね、従業員しかボーリングはできないんだよ」
前方に目をやると、そこはボーリング場だった。
引き返さなきゃ。
でもここからどうやってUターンすればいいんだろ?
この車の後ろには、さっきの踏み切りのように
たくさんの車が数珠繋ぎになっているのだ。
助手席を降りて周りを見てきた妹が言う。
「いけるいける」
Uターンできるという意味だ。
僕たちを乗せた車はとうとうレストランに向かって走ることになってしまった。
だんだん心配になってきた。
僕はどうやってここから逃げ出せばいいんだろう。
もしレストランに着いて車を降りたらどうなる。
隣に座っている美しい妹や後ろの座席のおばさんたちは
今まで運転していたのがお姉さんではなかったことに気がついて
半狂乱になってしまうことは確実だ。
僕は大勢の人たちの前でつるし上げを食らうことになる。
そうだ。誰が何と言っても絶対車から降りるのはよそう。
いや、ダメだ。結果は同じだ。
あのギョロ目のお父さんに引きずり出されるに決まっている。
力だけは誰にも勝ったことがないのだ。
散々迷った末、僕はドアを開け、一目散に走り出した。
だいたいこの辺の場所はわかっている。
僕の大学の近くだ。
街はすっかり夜になっていた。
ふと足元を見ると、自分が靴を履いていないことに気がついた。
僕は靴下で走っていたのだ。
信号にひっかかって止まる。
周りの人の足元が気になる。
コンパ帰りの学生たちが与太っている。
見るとその一群は皆靴を履いていない。
この連中の中に紛れ込んでしまおうか。
こいつらの仲間のような顔をしていれば恥ずかしくない。
そう思いかけたが、それはプライドが許さなかった。
こんな飲んだくれと一緒にされてたまるか!
[被験者が1983年8月20日に見た夢より]
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B : 終わりましたか?
A : ほーら、先生、やっぱり退屈しちゃったでしょ?
B : いえ、なかなかおもしろかったですよ。
A : 自分でも変なのはわかってるんですよ。
逃げるぐらいなら、最初から悪戯しなきゃいいのにって。
B : 夢ですからね。先のことは考えないでしょ。
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気になる異性がいた。
愉快な悪戯をした。
バレることを恐れ始めた。
バレるのが怖くなって逃げた。
靴も履かずに走っている自分がさらに恥ずかしくなった。
自分と同類の群集に身を隠そうとした。
でも群集と同じに見られることをプライドが許してくれなかった。
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だいたいそんな流れでしたね。
A : ええ、まあ。
B : どこが一番印象に残ってますか?
A : やっぱり「靴を履いていなかった」ことですかね。
B : 実生活で靴を履かずに歩いていたらかなり恥ずかしいですよね。
靴はこの場合、“常識的なこと”の象徴でしょう。
それまでの常識はずれのあなたの行動がどの程度まずいことなのか、
「夢」がそのレベルを示してくれたワケです。
「あなたが面白半分にやった悪戯は、
靴を履かずに街中を歩く程度に恥ずかしいことだ」とね。
A : 私っていうか、「夢の中の私」と言ってください。
先生の言い方だと、私がホントに常識のない人間みたいだ。
B : 夢の中に出てくる登場人物は、みなあなたの分身です。
最近人間関係で引っかかっていることなどありますか?
A : いえ、特には。
B : 常識はきちんとわきまえていらっしゃる?
A : そりゃもうそうですよ。
たくさんの部下も抱えてますから、滅多なことはできません。
B : でもあなたは、靴を履かずに街中を歩いた。
A : 「夢の中の私」です、歩いたのは。
B : 靴を履かずに街中を歩くほど恥ずかしいことをしている自分を、
あなたの心のどこかの部分が気づいている。
A : え? あ…あのこと…ですか?
B : そうかもしれません。
A : 先生、何か私のこと、知ってらっしゃるんですか。
B : それが何なのかはわかりませんが、
そのようなことが、あなたにはあるのだろうなということは推察できます。
A : 先生、言っちゃった方がいいですか? ここで。
B : 言わなくてもかまいません。
ここで言うと、あなたの赤裸々な過去と現在が
読者のみなさんにわかってしまいますよ。
A : それはまずい。
B : “あなたが気づいたこと”をもって、この夢の役割は終わりです。
A : ああ、よかった。
夢って、禅問答を投げてくる和尚さんみたいなところがあるんですね。
B : うまいこと言いますね。
心に余裕が生まれると、その人の言葉には深みと鮮やかさが出てくるものです。
みなさんがゆったりした表情で帰られるところを見ると、
私はこの仕事を選んでホントによかったなと思うんですよ。
はい、今ドリル先生の分析に共感した方、
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どうもありがとうございます。
